【集中講座】RhinoとGISの連携:Rhino × GISによる適地選定(前編)

これまでの連載では、RhinoとGISの連携による地理空間データの取得や可視化、3D Demographic、地形解析などを紹介してきました。
今回は、これらの技術を組み合わせた応用例として、都市環境の条件に基づく適地選定を前後編で紹介します。対象とするテーマは、「東京23区において、ファンズワース邸のような開放的な住宅を配置する場合、どのようなエリアが適しているか」というものです。同じ都市内であっても、人口密度や犯罪件数、公害・苦情件数などの指標はエリアごとに異なります。また、住宅の配置を検討する際には、建物そのものの形状だけでなく、周辺の都市環境も考慮する必要があります。
本記事では、GISデータをRhinoに取り込み、複数の指標を可視化・スコアリングすることで、都市環境の違いを整理します。後編では、これらの結果をもとに候補エリアを抽出し、建築モデルの配置やランドスケープの検討へと展開します。
今回は詳細な操作手順ではなく、これまでの連載で紹介した技術を組み合わせたワークフローと、その活用例を中心に紹介します。

GISにおける適地選定とは

GISにおける適地選定とは、複数の条件を重ね合わせ、目的に応じて適した場所を評価・抽出する手法です。
例えば、住宅の配置を検討する場合、人口密度だけでは都市の混雑状況を把握するための情報しか得られません。そこに犯罪件数や公害・苦情件数などを組み合わせることで、防犯や生活環境といった異なる観点から、エリアの特性を比較できるようになります。
また、どのような場所を適地とするかは、対象とする建築や用途によっても異なります。周囲との距離を重視する住宅と、駅からのアクセスを重視する商業施設では、評価に使用する指標やその優先順位も変わります。GISを利用した適地選定では、このように目的に応じた条件を設定し、複数のデータを組み合わせて評価を行います。
今回は、その一例として、ファンズワース邸のような開放的な住宅を想定した適地選定をRhino上で行います。

今回扱うデータの考え方(仮説)

今回の検討では、ファンズワース邸のモデルを使用します。ファンズワース邸は、全面をガラスで囲んだ開放的な建築として知られ、建物の内部と外部のつながりが特徴的です。その一方で、このような建築では、周辺からの視線や建物との距離など、外部環境との関係が重要になります。
そこで今回は、開放的な住宅の配置を検討するため、次の3つの仮説に基づいて評価条件を設定しました。

  • 人口密度: 人口密度が低いエリアほど、周囲との距離や開放的な空間を確保しやすい可能性がある。
  • 犯罪件数: 犯罪件数が少ないエリアを、防犯に関する評価の一つとして重視する。
  • 公害・苦情件数: 公害や生活環境に関する苦情件数が少ないエリアを、居住環境の評価において重視する。

これらの指標を組み合わせることで、東京23区の各エリアを一定の条件のもとで比較します。ここで使用するデータは、あくまで候補エリアを絞り込むための評価指標です。具体的な住宅の配置については、後編で建物の位置や周辺環境を確認しながら検討します。

市区町村界データの準備

まず、東京23区の評価を行うための基礎データとして、ESRIジャパンが提供する全国市区町村界データを使用します。このデータには、日本全国の市区町村の境界形状に加え、都道府県名や市区町村名などの属性情報が含まれています。今回は、その中から東京都23区のみを抽出して使用します。今回使用する全国市区町村界データは、日本測地系2011(JGD2011)を基準としています。他のGISデータと座標参照系を統一するため、事前にQGISを使用して地理座標系(WGS84)へ変換します。Rhinoへの取込には、GrasshopperのHeronプラグインにある「Import Vector」コンポーネントを使用します。

読み込んだポリゴンデータはRhino上でサーフェスとして扱い、各区を識別しやすいように区名のラベルを配置します。これにより、東京23区の地理的な範囲をRhino上に表現でき、統計データを組み合わせた可視化や分析を行うためのベースが整います。

東京23区の境界データと区名ラベルをRhino上に表示

東京都23区の人口密度マップの作成

次に、東京都が公開している人口統計データを使用し、東京23区の人口密度を可視化します。人口密度は、単位面積当たりの人口を示す指標であり、都市における人口の集中状況を比較する際に使用されます。
今回は、各区の人口密度に応じてサーフェスを色分けし、東京23区内の分布を表現します。以下の画像では、色が濃いほど人口密度が高く、薄いほど人口密度が低いことを示しています。

東京都23区の人口密度マップ

数値の一覧だけでは把握しにくい人口密度の違いも、地理的な位置と対応づけて色分けすることで、エリアごとの分布傾向を視覚的に比較できます。例えば、人口密度が比較的低い区であっても、区内のすべての場所に十分な空間があるとは限りません。今回の人口密度マップでは、まず都市全体を対象に分布傾向を把握し、その後の候補エリアの絞り込みに利用します。

犯罪件数・公害/苦情件数を用いた3D Demographicの作成

続いて、警視庁が公開している犯罪発生状況データと、特別区協議会が公開している公害関係苦情受付件数を使用し、3D Demographicを作成します。
3D Demographicは、地域に対応する統計情報を立体的な形状や色によって表現する方法です。これまでの連載でも、人口やジニ係数などの統計データを使用した3D Demographicを紹介しました。今回は、犯罪件数と公害・苦情件数を組み合わせ、東京23区の都市環境を異なる指標から可視化します。
具体的には、犯罪件数を円柱の高さとして表現し、公害・苦情件数を含む値を円柱の色の変化として表示します。円柱が高いほど犯罪件数が多く、低いほど少ないことを示します。また、色は赤色に近いほど犯罪・苦情に関する値が大きく、黄色に近いほど小さいことを示しています。

犯罪件数と公害・苦情件数を用いた3D Demographic

このように、高さと色に異なる情報を割り当てることで、複数の統計データを同時に可視化できます。例えば、犯罪件数が少ないエリアでも、公害・苦情件数では異なる傾向を示す場合があります。それぞれの指標を一つの3Dモデル上に表現することで、単一のデータだけでは把握しにくいエリア間の違いを比較できます。
一方、評価する指標が増えるほど、それぞれの分布を個別に確認するだけではエリア全体の比較が複雑になります。そこで次に、複数の指標を一定の条件で統合し、スコアリングを行います。

複数の指標を用いたスコアリング

ここまで、人口密度、犯罪件数、公害・苦情件数の3つの指標を可視化しました。これらのデータを適地選定に利用するためには、それぞれの指標を比較可能な形に整理し、どの条件を重視するかを設定する必要があります。
今回は、開放的な住宅の配置を検討するという目的に対して、防犯に関する条件を最も重視することにしました。その仮説に基づき、以下の重み付けを設定します。

評価指標重み
犯罪件数0.4
公害・苦情件数0.35
人口密度0.25

犯罪件数は、防犯に関する指標として最も大きな重みを設定しています。次に、居住環境を比較するための公害・苦情件数を重視し、人口密度を建築の開放性に関わる指標として扱います。各指標は、値が小さいほど評価が高くなるように正規化し、それぞれの重みを適用して統合します。それぞれの重みを適用し、3つの指標から統合スコアを算出します。 

人口密度・犯罪件数・公害/苦情件数の重み付けによる東京都23区の統合評価

今回のスコアリングでは、評価の条件と優先順位を明確にすることで、各区の特徴を共通の基準で比較できるようになりました。例えば、人口密度だけで見れば評価が高いエリアでも、犯罪件数や公害・苦情件数を組み合わせることで、総合的な評価は変化します。 
このように、複数の指標に重みを設定して統合する方法は、目的に応じた候補エリアの比較に活用できます。評価する用途が変われば、使用する指標や重み付けも変更できます。

まとめ(前編)

今回は、東京23区を対象に、人口密度、犯罪件数、公害・苦情件数を用いて、都市環境の分布を可視化し、スコアリングを行いました。これまでの連載で紹介したGISデータの取込や属性情報の活用、3D Demographicなどを組み合わせることで、異なる統計データを共通の地理的な範囲で比較できました。さらに、評価指標に重み付けを設定することで、複数の条件を統合したエリア評価を行いました。
今回の分析では、東京23区という都市スケールを対象に候補エリアを比較しています。次の段階では、区単位の評価結果に、実際の建物配置や周辺環境の情報を組み合わせて検討を進めます。
次回(後編)では、スコアリング結果をもとに文京区を対象エリアとして選び、Project PLATEAUの建物データとGrasshopperによるバッファー解析を活用して、候補地をさらに絞り込みます。また、抽出した候補エリアにファンズワース邸のモデルを配置し、Lands Designによる植栽配置やレンダリング、Cesium ionを使用したWeb上での可視化へと展開します。

※本記事で紹介している内容は、AppliCraft Seminar Winter 2025でも紹介しています。
以下の動画の「4.Rhino一気通貫ワークフロー」(23:46〜)でも関連内容を紹介しています。
https://www.youtube.com/watch?v=suSSOSZWfoI

また、セミナーで 使用した「Rhino × GIS」に関する発表資料は、以下よりPDF形式でご覧いただけます。
AppliCraft Seminar Winter 2025「Rhino × GIS」発表資料(PDF)

データおよび著作権について

本記事で使用しているデータは、以下の公開データをもとにしています。

・市区町村界データ:ESRIジャパン
 https://www.esrij.com/gis-data/japan-shp/

・人口密度データ:東京都統計年鑑
 https://www.toukei.metro.tokyo.lg.jp/jsuikei/js-index2.htm

・犯罪発生状況データ:警視庁
 https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/jokyo_tokei/jokyo/index.html

・公害関係苦情受付件数:特別区協議会(東京都環境局データに基づく)
 https://www.tokyo-23city.or.jp/chosa/tokei/tokubetsuku/2025_r7/index_08.html

本記事は、2025年12月時点で確認した公開データおよび関連情報をもとに作成しています。データの利用条件や更新状況は各提供元によって異なるため、実務で利用する際には、各提供元の公式サイトで最新の情報をご確認ください。